大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成11年(ラ)808号 決定

主文

本件執行抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

1  本件抗告の趣旨・理由は別紙のとおりである。

2  当裁判所の判断

当裁判所も、当審における抗告人の主張を合わせ考えても、本件申立ては理由がなく棄却すべきものと判断するが、その理由は原決定理由記載のとおりであるからこれを引用する。

但し、原決定理由2末尾に次のとおり付加する。

「もっとも、抗告人である債権者が転付を求めた債権である債務者の定期預金は、強制執行停止決定を債務者が得る際に保証として第三債務者と支払保証委託契約を締結するについて、第三債務者に預け入れたものである。この保証は、抗告人の債務者に対する損害賠償請求権を担保するためのものであり、現段階においては、抗告人は損害賠償請求権を行使することができる状態にある。抗告人が本件債権の転付を求めたということが、法律的に損害賠償請求権を行使しない意思表示であるとみることはできず、担保取消の手続(これは債務者からの申立てを待つことになると思われる)が取られていない現在、抗告人が転付を求めた債権に第三債務者の有する優先権である質権が存在していることには変わりがない(但し、抗告人が債務者に対する前記損害賠償請求権を放棄する旨の証明書を提出した場合は別異に解する余地がないではないが、本件においてそのような証明書の提出はない。)」

3  よって、本件抗告を棄却し、抗告費用は抗告人の負担として、主文のとおり決定する。

(別紙)

執行抗告状

抗告の趣旨

1、原決定を取消す。

2、差押債権者の申立てにより、上記当事者間の平成8年(ル)第2296号債権差押命令により差し押さえられた別紙記載の債権を支払いに代えて券面額で差押債権者に転付する。

との決定を求める。

抗告の理由

1、原決定は、担保取消制度に対する基礎的な誤解に基づくもので合理性が無く、実務の慣例にも完全に反している。

原決定は、第三債務者の優先権の行使がなされうるから、認めないとしているが、本件の申立て自身は、債権者自身によってなされており、この債権者が、まさしく、本件の担保取消の相手方なのであるから(即ち、本件で言えば、控訴に伴う執行停止決定の被申立人永山秀好である)その者が担保取消について権利行使する道理がないのだから(だからこそ支払い保証のための預金の転付命令を得て、債権者永山秀好が、担保取消決定を得て、この預金をおろすのである。無論、担保取消の相手方である被申立人永山秀好が同意書を出すのである。)、第三債務者としても、権利行使をされないのに支払い保証により支払う道理がない。

本件の決定は、おそらく、権利行使の権利者、すなわち、執行停止決定の被申立人ではない、他の者が、転付命令の申立てをしてきた場合と混同・誤解して、本件の却下決定を出しているものと思われる。

この場合だと、担保取消について、権利行使の権利者、すなわち、執行停止決定の被申立人が権利行使することがあり得るからまさしく、第三債務者が、支払い保証により支払い、その結果、優先権を行使することがあり得るから、転付命令を認めないことには合理性があるが、本件の場合は、権利行使の権利者自身(すなわち、執行停止決定の被申立人)が債権者となり、差し押さえて、転付命令を得ようとしているのだから担保取消について権利行使する道理がないのだから、第三債務者が、優先権を行使する道理がない。

従って、原決定は、担保取消制度についての基礎的な誤解によるもので、完全に誤っていると言わねばならない。

このような、誤った原決定が維持されるならば、今までの実務上認められてきた、勝訴判決を得た債権者(すなわち、執行停止決定の被申立人)が、控訴に伴う執行停止決定のための保証金(ないし支払い保証委託契約のための預金)の差押・転付命令を得て、債権者が担保取消決定を得て、保証金(ないし支払い保証委託契約に基づく預金)をおろすというこれまで通常弁護士が行ってきた実務が、今後、何らの合理性もないのに認められなくなり、実務上由々しき問題である。

従って、取消は免れない。

執行抗告の理由追加書

執行抗告の理由

1、原決定は、甲第一号証の大阪高裁の決定を、鵜呑みにして、本件にまで無条件に適用したものであるが、事案が全く違っており、合理性が全く無い。

右の事案は、担保権者以外の者が、転付命令を申し立てた事案であり本件のような担保権利者が転付命令を申し立てた事案とは全く異なっている。

本件のような担保権利者が転付命令を申し立てた場合には、担保権を行使しないことが明らかであり、従って、第三債務者(銀行)が、支払保証により支払うこともなく、優先権が行使されないことは明らかである。

右の事案での抗告人でさえ、その申立書の中で、「ただし、担保権利者が、転付命令を求めた場合は、自己の有する還付請求権(質権)を放棄したものと認められるから、さしつかえないが、本件転付命令の債権者は、担保権利者ではなく第三者である。」と記載して(甲第一号証八八ページの赤枠部分内)、担保権利者が転付命令を求めた場合は、認められることを前提にして注意書きしている。

実際にも、このように、担保権利者が転付命令を得て、担保取消手続を行って、保証金(ないし支払保証委託契約のための預金)を得るという方法は、広く、今まで、実務界において認められてきていたのであり(ちなみに本件の転付命令申立も、他の弁護士から経験を聞いて、なしたものであり、広く行われている。)、そのために、右の事案での抗告人でさえ、その申立書の中で、その場合は、別であるとわざわざことわっているのである(そうでないと、自分らも、今後と同様の転付命令の申立てをする場合に困ってしまうから)。

学説の反対説でさえ、その論拠は、要するに、転付命令発布後優先権が行使された場合には、不当利得の問題を残すことになり、簡明な法律関係の決済という趣旨にそわないからとしており、そのことを考慮しているだけのことで、優先権が行使されることのない担保権利者が、転付命令の申立をする合は、別に問題なく認められることを、当然の前提として立論しているものである。

むしろ、まさしく、法律関係が簡明に決済されるから、その趣旨にも適合することになる。

以上のように、原決定が誤解に基づく決定であることは、明らかであり取り消されるものであることは明らかであるが、さらに、法曹会等の出版物も、急ぎ集めて提出したいと思っている。

執行抗告の理由追加書・その2

執行抗告の理由

1、担保権利者が、支払保証のための預金(質権設定されたもの)を差し押さえて、転付命令を得た後に、債権者(即ち担保権利者)が、担保取消の申立をして、担保取消決定を得て、第三債務者(銀行)から預金を取得すると言う方法は、実務でこれまで、広く、行われてきたものであり、最近出版された法曹会の実務書にも、マヌュアル的に説明されている(甲第二号証)。

また、申立代理人自身も、他の弁護士二名から、その経験を聞いて申立たのであり、今まで実務において、広く認められてきたものである。

担保権利者以外の者が、転付命令を申し立てた事案ならば、ともかく、本件のような担保権利者が転付命令を申し立てた場合には、何らの問題もない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例